2023.10.02
越境ECにおける関税とは?仕組みや目的、各国の関税制度について詳しく解説
越境ECを行う際、海外の税関を通ることで関税が発生します。関税は国や商品によって税率が異なるものです。事前に適切に把握しておかないと、関税が原因で価格が高くなる可能性があります。価格設定を間違えると、商品が売れなくなってしまうかもしれません。
本記事では、越境ECにおける関税について仕組みや目的、各国の関税制度について解説します。本記事を読むことで関税に関する基礎知識を身に着けられるので、初心者の方でもECサイトを適切に運用できるようになるでしょう。
自社商品の関税率を調べる方法も紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:【徹底解説】越境ECとは?市場規模やメリット、成功するためのポイントを詳しく紹介
この記事でわかること
- 越境ECにおける関税の仕組み
- 自社商品の関税率を調べる方法
- 越境ECにおける関税の注意点
目次
越境ECにおける関税とは?
関税とは、商品を輸出入した際に課せられる税金のことです。日本では輸出の際に関税はかからないものの、輸入する際に関税が発生します。
越境ECの場合、海外から自社の商品を購入した人が関税を納めなければなりません。そのためECサイトに関税が発生することを明記する必要があります。
また商品やサービス、各国の法律によって税率が異なるため、越境ECの担当者は自社商品に対してどれくらいの関税がかかるのか把握することが重要です。
なお、越境ECにおける消費税については関連記事にて解説しておりますので、ぜひお読みください。
越境ECにおける関税の仕組み
関税には大きく分けて2種類あり、法律に基づいて定められる税率(国定税率)と、条約に基づいて定められる税率が存在します。
国定税率 | 条約に基づいて定められる税率 |
---|---|
基本税率 暫定税率 特恵税率 簡易税率 |
協定税率 EPA税率 |
日本では「関税定率法」と「関税暫定措置法」によって国定税率が定められていて、大きく分けて4種類の税率があります。
一方、「協定税率」や「EPA税率」と呼ばれる税率は条約に基づいて定められる税率です。協定税率は、各国が一定率以上の関税を課さないために制定されました。
EPA税率はEPA締結国からの産品を対象とした税率のことです。一部の商品は、EPA税率によって税率が安くなる場合があります。
関税は輸入貨物の価格・数量を基準に課されますが、それ以外の方法も含め以下8種類の形態があります。
関税の形態 | 概要 |
---|---|
従価税 | 取引価格を基準に税率を決定 |
従量税 | 重量を基準に税率を決定 |
混合税 | 従価税と従量税を組み合わせて決定 |
差額関税 | 価格が高い場合:水準価格との差額を課す 価格が低い場合:無税または低税率を適用 国内生産者と消費者のバランスを図る |
スライド関税 | 関税率を変動 国内生産者と消費者のバランスを図る |
季節関税 | 季節によって税率が変動する |
関税割当制度 | 一定の数量以内の輸入品に限って 無税または低税率を適用 |
特殊関税 | 関税に追加で課される割増関税 |
参考:税関|関税のしくみ
越境ECにおける関税の目的
各国で関税を設けている理由は以下のように2つあります。
- 国の収益を確保するため
- 自国の産業を保護するため
EC事業者の本音としては、関税が無い方がビジネスを展開しやすいと感じるかもしれません。しかしそれぞれの理由を知ることで、より越境ECについて理解を深められるでしょう。
ここからは、それぞれの目的について解説します。
国の収益を確保するため
1つ目の目的は、国の収益を確保するためです。以前は国の財源を確保するために、輸入時に関税を徴収している時代も存在しました。
しかし最近では国の財政規模が大きくなり、徴収体制が整備されるようになったことから、日本を含め先進国では財源確保を目的とした関税は小さくなっています。
ただし、発展途上国では関税による財源確保を重要としているところも存在します。
自国の産業を保護するため
2つ目の目的が、自国の産業を保護するためです。日本を含め、各国が国内産業の衰退を防ぐためにも関税をかけています。
関税を課すことで、海外からの国内参入が難しくなるため、国内の産業が守られるという仕組みを構築できます。こうした事情から、自国より安い商品や、機能面で優れている商品などが課税対象となることが多いです。
アメリカ向けに越境ECを行う際に発生する関税
ここからは、それぞれの国でどのような関税が発生するかについて紹介していきます。
アメリカは越境ECの市場規模が大きい国です。アメリカをターゲットにする場合は、アメリカの関税事情について知っておきましょう。
アメリカでは、1930年に成立した関税法に基づいて関税が決定されます。また1993年に定められた税関近代化法により、関税の電算化が進んでいるのが現状です。
自社商品にどれくらい関税が課されるのかを調べる際は、「米国関税率表」から閲覧可能です。また、アメリカ国際貿易委員会が商品を分類した「HTSコード」を活用することで商品ごとの関税率を調べられます。
HTSコードとは、アメリカで用いられているHSコードの代替番号です。世界の主要国で使用されているのはHSコードですが、アメリカでは利用していないので注意してください。
米国の貿易相手国は多くの場合、正常貿易関係(Normal Trade Relations:NTR)というステータスで扱われています。NTR諸国からアメリカに輸入される商品が、原則的に同率関税が適用されます。
なお、アメリカには以下3種類の税率が存在します。
- 一般税率
- 特別税率
- 法定税率
ここからは、それぞれの税率について解説します。
一般税率
一般税率とは、NTR諸国向けに適用される税率のことです。日本から輸入される商品にも一般税率が適用され、基本的にはほとんどの商品が一般税率で課税されます。
しかし、日米貿易協定のような特別な協定で決められているものは対象外となるので注意が必要です。日米貿易協定で対象とされている商品については、特別税率が適用されます。
特別税率
特別税率とは、FTAや貿易協定を結んだ国や一般特恵関税が適用される開発途上国などの税率のことです。
日本では、アメリカと「日米貿易協定」という協定結んでおり対象商品の関税が撤廃、または引き下げられています。対象商品の一例は以下の通りです。
- 楽器
- 眼鏡
- 醤油
- お菓子類
- 緑茶
上記の商品をアメリカに輸出する場合は、一般税率ではなく特別税率が適用されます。
法定税率
法定税率とはキューバ、北朝鮮、ロシア、ベラルーシの4か国を対象にした税率のことです。かつては共産圏諸国向けの税率として設けられていましたが、対象国が徐々に減少していき、2022年3月以前はキューバ、北朝鮮のみでした。
ところがウクライナ侵攻の影響によって4月以降にロシアとベラルーシが加えられ、現在では4か国が対象となっています。
EU向けに越境ECを行う際に発生する関税
EUでは「域外共通関税制度」という制度により、EU域外では統一された関税率を設定しています。基本的には、EUは輸入品の価格に対して課税する「従課税制」を導入しています。
日本の場合、「日EU経済連携協定(EPA)」の規制を満たしている場合は「特恵税率」が適用され、関税が引き下げられています。具体的には、以下のような商品が対象です。
- お茶
- 工業品
- 酒類
- 水産物
EUにおける関税を調べる際は、「WorldTariff」という世界の関税率情報が網羅されているデータベースで調べることが可能です。ほかにも、WTO、WCO(世界税関機構)、ITC(国際貿易センター)が共同開発した「RULES OF ORIGIN FACILITATOR」で調べられます。
さらに日本からECに商品を輸出する場合、付加価値税(VAT)が課税される場合があります。その条件は以下の通りです。
商品価格が150ユーロ未満の場合 | 商品価格が150ユーロを超える場合 |
---|---|
関税は免税 付加価値税のみ課税 |
関税+付加価値税が課税 |
中国向けに越境ECを行う際に発生する関税
中国では「国務院関税税則委員会」という組織が関税率を決めていて、関税には「輸入関税」と「輸出関税」の2種類があります。今回は越境ECについて開設するので、輸入関税のみ取り上げます。
輸入関税については以下の通りです。
関税の種類 | 概要 |
---|---|
最恵国税率 | 中国と関税互恵協定を締結した国やWTOの加盟国に適用 |
暫定税率 | 暫定的に設定された税率 2020年12月、883品目の最恵国税率を下回る税率を設定している |
協定税率 | 条約を結んだ国に対し、特定の商品に設定される関税率 |
特恵税率 | 開発途上国に適用される税率 最恵国税率より低い |
普通税率 | 上記に含まれない国や地域に適用される税率 |
上記のうち、日本は最恵国税率に該当します。
中国の関税のシステムとしては、以下の通り3つの形態が存在します。
関税の形態 | 概要 |
---|---|
従価税 | 商品の取引価格に基づき課税 |
従量税 | 商品の容量・重さ・面積などに対して課税 |
複合税 | 従価税と従量税を組み合わせて課税 |
中国の関税を調べる際は、「WorldTariff」「RULES OF ORIGIN FACILITATOR」または中国のHSコードで閲覧可能です。
なお、越境ECの場合は「⾏郵税」と「電商総合税」も課されます。それぞれの概要については、以下で解説します。
⾏郵税
⾏郵税とは、個人が商品を中国に輸入した際に発生する税金のことです。自社商品を購入した中国人が、輸入時に納付します。
⾏郵税は簡易課税方式計算され、以下のように商品府ごとに分類されています。
⾏郵税の税率 | 対象商品 |
---|---|
13% | 書籍・新聞 玩具 ゲーム 食品 パソコン デジカメなどのIT機器 |
20% | スポーツ用品 釣り用具など |
50% | タバコ お酒 高級アクセサリー 宝石 高級腕時計 高級化粧品など |
ただし、行郵税額が50元以下は免税されるため販売価格によっては発生しません。
電商総合税
電商総合税とは、企業が保税倉庫を利用して商品を発送するときに課される税金のことです。2016年4月8日に中国政府が越境ECに関する新制度として打ち出しました。
電商総合税の特徴は、行郵税よりは税率が安いことです。商品にはよりますが、6.1~28.9%に定められています。
ただし、電商総合税が適用されるための条件は以下のように厳しいものです。
- 購入者が中国国内の個人が個人使用目的で購入すること
- 税関が監督できるルートを経由していること
- 中国国内で登記された会社の越境EC(「天猫国際」「京東国際」など)で購入していること
- ポジティブリストに記載された商品であること
なお、一定の条件を満たすと、以下のような優遇措置を受けられます。
条件 | 1ユーザーの取引上限額が1回あたり5,000元以下 年間での購入総額が26,000元以下 |
---|---|
優遇措置 | 関税率が0% 増値税・消費税が法定額の70% |
東南アジア向けに越境ECを行う際に発生する関税
基本的に東南アジアでは、「ASEAN物品貿易協定」によって関税が撤廃されています。ASEAN物品貿易協定とは、物品貿易の自由化・円滑化を目的とした協定で、日本が多国間で締約した最初の協定です。
対象国は以下の通りです。
- ブルネイ
- インドネシア
- マレーシア
- フィリピン
- シンガポール
- タイ
- カンボジア
- ラオス
- ミャンマー
- ベトナム
ただし、各国によって一部制度が異なっています。以下では、その一例として以下の3国を紹介します。
シンガポールの場合
シンガポールの関税は大きく分けて「一般関税」と「特恵関税」の2種類があります。それぞれの形態については以下の通りです。
関税の形態 | 概要 |
---|---|
一般関税 | アルコールに課される税 |
特恵関税 | 自由貿易協定(FTA)を締結している国に適用される税 |
一般関税はアルコールに課される税で、以下のように4品目に分けられます。
- アルコール度数5.8%以下のスタウト(黒ビール)(stout & porter)
- アルコール度数5.8%超のスタウト(黒ビール)(stout & porter)
- アルコール度数5.8%以下のビール(beer & ale)
- アルコール度数5.8%超のビール(beer & ale)
一方自由貿易協定(FTA)を締結している国には特恵関税が適応され、一般関税よりも税率を抑えられます。
インドネシアの場合
インドネシアには以下のように5種類の税率があります。
- 一般税率
- CEPT (ASEAN共通効果特恵関税)税率
- FTA(自由貿易協定)の適用税率
- GSP(一般特恵関税制度)税率
- GSTP(世界的貿易特恵関税制度)税率
一般税率は協定を結んでいない相手国や品目に対して適応され、「輸入関税」と「輸出関税」の2種類があります。越境ECの対象である輸入関税については、以下のように分類されます。
輸入関税の分類 | 基本輸入税率 |
---|---|
最必需品 | 0~10% |
必需品 | 10~40% |
一般品 | 50~70% |
贅沢品 | 上限200% |
なお、日本とインドネシアでは「日本インドネシア経済連携協定」と「ASEAN日本包括的経済連携」を結んでいるため、減税および免税を受けられます。
マレーシアの場合
マレーシアには「一般税率」と「優遇税率」の2種類があります。多くの場合に課されるのが一般税率で、協定などで免除されていない場合に適用されます。
一方、各FTA・EPAで適用されるのが優遇税率です。FTAとは「Free Trade Agreement」の略称で、自由貿易協定を意味しています。FTA締結国の輸入品については関税の制限が撤廃されます。
EPAとは「Economic Partnership Agreement」の略称で経済連携協定のことです。これは貿易・投資を促進するために定められた協定で、FTAよりも広範囲に定められています。
マレーシアの関税は基本的に従価税ですが、いくつかの品目は従量税となっています。税率は0~60%です。
なお、日本では「日本マレーシア経済連携協定」と「ASEAN日本包括的経済連携」の2つを利用することで、減税および免税を受けられます。
越境ECを行う際に関税について注意すべきこと
越境ECを始める際は、以下2つのポイントに注意しましょう。
- 取り扱う商品ごとに関税を把握する
- ECサイトに関税の情報を明記する
これらの注意点を理解することで、関税関連のトラブルを避けられるでしょう。以下ではそれぞれの注意点について解説します。
なお越境ECの始め方については下記記事で紹介しております。合わせてお読みください。
取り扱う商品ごとに関税を把握する
越境ECにおいては、取扱商品の関税は必ず把握しておきましょう。商品や進出国ごとに関税率が変わるため、商品ごとの確認が必要です。
そのためには、HSコードについて理解しましょう。対象国の関税を把握することで、情報収集しやすくなります。なお、アメリカの場合はHSコードではなくHTSコードが利用されているため注意が必要です。
また「WorldTariff」や「RULES OF ORIGIN FACILITATOR」について理解も理解し、活用していきましょう。
ECサイトに関税の情報を明記する
自社のECサイトには、必ず関税の情報を明記しなくてはなりません。関税は基本的に自社商品を購入したユーザーが支払うため、各国の言語で記載する必要があります。
もし関税について説明を記載していなかった場合、返品や受け取り拒否などのトラブルに発展することが懸念されます。
そこで一般のユーザーでも理解できるように、関税を含めた価格を記載することが大切です。ユーザーが勘違いしないよう、関税を支払う必要があることをECサイトで伝えるようにしましょう。
自社商品の関税率を把握して越境ECを行おう
越境ECの性質上、商品の輸出には関税が発生します。関税は国の収益を確保したり、国内産業を保護したりするために設けられているため、必ず向き合わなければならない税金です。
各国の税率はその国の規定や取り扱い商品によって税率が異なります。また商品の重量や数量によっても変動する場合があるため、事前に調査することが大切です。
そしてECサイトを構築する際は、ユーザーから理解を得られるように必ず関税について記載しましょう。
もし越境ECの関税に関して不安や疑問がある場合は、テクノデジタルにご相談ください。弊社ではECサイトの制作をはじめ、マーケティング戦略の立案を行っています。お客様企業の事業に合わせた提案ができますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
投稿者
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システム開発、Webサイト制作、ECサイトの構築・運用、デジタルトランスフォーメーション(DX)など、デジタルビジネスに関わる多岐の領域において、最新のトレンド情報や実践的なノウハウを発信してまいります。
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