2025.11.11
RACIチャートが解決する役割分担のモヤモヤ
プロジェクトの会議室で、こんな会話が繰り広げられたことはありませんか?
「このタスク、誰が責任を持つんだっけ?」 「いや、それは私の担当じゃないですよ。」 「でも、あなたは意見を求められていたでしょう?」
誰もが「自分は関わっているはずなのに、なぜか責任が曖昧になる」と感じ、結果としてタスクが進まず、プロジェクトが停滞する。これは、多くの組織で日常的に起こる「あるある」な課題です。
この問題の根源は、役割と責任の定義が曖昧なことにあります。特に、関係者が増える複雑なプロジェクトでは、この曖昧さが致命的な遅延やトラブルを引き起こします。
このモヤモヤを解消し、プロジェクトを円滑に進めるための強力なツールがRACI(レイシー)チャートです。RACIは、役割分担を明確にするためのシンプルなフレームワークであり、その効果は絶大です。
目次
RACIとは何か? 4つの責任の頭文字
RACIは、プロジェクトにおける各タスクや成果物に対して、関係者がどのような役割を担うかを明確にするためのマトリクスです。その名前は、以下の4つの英語の頭文字から取られています。
| R – Responsible(実行責任者) | 実際にタスクを実行する人。この役割は、タスクごとに複数人いても構いません。ただし、実行責任者が複数いる場合は、誰がどこまでやるかを明確にすることが重要です。 |
|---|---|
| A – Accountable(最終的な説明責任者) | タスクの最終的な成果に責任を持つ人。タスクが完了したかどうか、品質が満たされているかどうかを最終的に承認する、プロジェクトにおける「単一の責任者」です。この役割は、1つのタスクに対して必ず1人だけです。 |
| C – Consulted(相談先・助言者) | タスクの実行前に、意見や専門知識を求められる人。彼らのインプットはタスクの進行に不可欠ですが、意思決定の権限はありません。 |
| I – Informed(報告先・情報共有先) | タスクの進捗や完了について、事後的に報告を受ける人。タスクの実行には直接関与しませんが、情報が共有されることで、全体の状況を把握できます。 |
なぜRACIが重要なのか?
RACIを導入することで、プロジェクトは劇的に改善します。その主な理由は以下の3つです。
1. 責任の明確化と「誰がやる?」の解消
最も大きな効果は、タスクの実行者と最終的な承認者が明確になることです。これにより、「誰がやるんだ?」という不毛な議論が消え、タスクがスムーズに動き始めます。特に「A(Accountable)」が1人であるというルールは、責任の所在を明確にし、最終的な意思決定の停滞を防ぎます。
2. コミュニケーションの最適化
RACIは、誰に相談し(C)、誰に情報を共有すべきか(I)を定義します。これにより、必要な人にだけ情報が届くようになり、無駄なコミュニケーションや会議が減ります。関係者全員がすべての情報にアクセスする必要はなくなり、本当に必要な人に、必要なタイミングで情報が届くようになります。
3. チームのモチベーション向上とオーナーシップの醸成
RACIによって自分の役割が明確になると、メンバーは「自分はプロジェクトに貢献している」という実感を持つことができます。特に「R(Responsible)」の役割を担うメンバーは、自律的にタスクを遂行するモチベーションが向上し、プロジェクトに対するオーナーシップが生まれます。
RACIチャートの作り方と実践のコツ
RACIチャートは、複雑なツールではありません。以下のシンプルなステップで作成できます。
- タスクを洗い出す:プロジェクトの主要なフェーズや成果物を、詳細なタスクレベルまで分解します。
- 関係者をリストアップする: プロジェクトに関わるすべての関係者(チームメンバー、部門長、外部ベンダーなど)をリストアップします。
- マトリクスを作成する:縦軸にタスク、横軸に関係者を配置した表(マトリクス)を作成します。
- 役割を割り当てる:各タスクと各関係者の交わるセルに、R、A、C、Iのいずれかを記入していきます。
実践のコツ
- 「A」は必ず1人: 1つのタスクに「A」は必ず1人だけです。ここが最も重要なポイント。もし2人以上の「A」がいる場合は、タスクをさらに分割するか、どちらか一方に役割を統一しましょう。
- タスクごとに役割を見直す: 役割は固定ではありません。あるタスクで「R」だった人が、別のタスクでは「C」や「I」になることはよくあります。
- 作成したら共有する: RACIチャートは作って終わりではありません。関係者全員で内容を共有し、合意を得ることが不可欠です。これにより、誤解を防ぎ、全員が同じ認識でプロジェクトを進められます。
- 定期的に見直す: プロジェクトは生き物です。途中で役割が変わったり、新たな関係者が加わったりすることもあります。プロジェクトのフェーズが変わるたびに、RACIチャートを見直しましょう。
RACIチャートのよくある誤解と注意点
RACIはシンプルゆえに、使い方を誤ると逆効果になることもあります。
- RACIは万能ではない: RACIはあくまでプロジェクトの役割を整理するツールであり、チームのコミュニケーション不全や根本的な文化的な課題を解決するものではありません。
- 過剰な「C」と「I」の割り当て: 誰もがプロジェクトに関わりたい、あるいは情報から取り残されたくないと感じるため、多くの人に「C」や「I」を割り当てがちです。しかし、これが多すぎると、コミュニケーションの負荷が増大し、本来の目的である効率化を損ないます。本当に必要な人だけに絞り込む勇気を持ちましょう。
- 「A」の役割が形骸化する: 「A」は最終的な責任者ですが、細かなタスクのすべてを指示・管理するわけではありません。あくまで最終的な承認と責任を担う役割です。タスクの実行は「R」に任せ、信頼することが重要です。
RACIはプロジェクト成功への羅針盤
RACIチャートは、単なる役割分担表ではありません。それは、プロジェクトに関わるすべての人々が、自身の役割を理解し、お互いの責任を尊重しながら協力するための「羅針盤」です。
あなたのプロジェクトがもし「誰がやるの?」というモヤモヤに悩まされているなら、次回のキックオフミーティングでRACIチャートを作成することを提案してみてください。その一歩が、プロジェクトの成功への確かな道筋を開くはずです。
シンプルな4つのアルファベットが、あなたのチームをより強く、そして目標達成へと導きます。
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システム開発、Webサイト制作、ECサイトの構築・運用、デジタルトランスフォーメーション(DX)など、デジタルビジネスに関わる多岐の領域において、最新のトレンド情報や実践的なノウハウを発信してまいります。
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