2025.07.15
フィジビリティスタディとは?意味・手順・事例・テンプレートまで徹底解説

新規事業の立ち上げや大規模な投資プロジェクトを進める際、「その計画は実現可能なのか?」を事前に確認するのは非常に重要です。そこで活用されるのがフィジビリティスタディ(Feasibility Study)。
この記事では、フィジビリティスタディの意味や目的、実施手順から活用事例、便利なテンプレートまで詳しく解説します。これからフィジビリティスタディを実施しようと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
フィジビリティスタディとは?

フィジビリティスタディ(Feasibility Study)とは、計画中の事業やプロジェクトの実現可能性を多角的に調査・分析し、実行すべきかどうかを判断するための調査・検討プロセスのことです。略してFSと呼ばれることもあります。
たとえば、新規事業の立ち上げや新製品の開発、大規模な不動産開発、海外進出、ITシステムの導入など、さまざまなシーンで行われています。フィジビリティスタディでは、技術面・市場性・法的規制・コスト・収益性など、複数の観点から総合的に検討を行い、計画の実現可能性を客観的に判断するのが特徴です。
フィジビリティスタディを行う目的
フィジビリティスタディの主な目的は、以下の通りです。
リスクの洗い出し | 計画段階で潜在的なリスクを特定し、事前に対応策を検討することで、実施後のトラブルを防止します。 |
---|---|
投資判断の材料作り | プロジェクトに投資するべきか、見送るべきかの判断材料を明確にし、経営層やステークホルダーの意思決定を支援します。 |
実現可能性の可視化 | プロジェクトの採算性や技術的実現性、市場ニーズの有無などを具体的なデータと分析結果で可視化します。 |
ステークホルダーの納得感醸成 | 客観的な調査・検証結果をもとに説明することで、関係者の納得と合意を得やすくなります。 |
フィジビリティスタディの実施手順と調査項目

フィジビリティスタディは、以下の手順で進めるのが一般的です。
- 課題・目的の明確化:計画の背景、達成したい目的、解決すべき課題を整理します。
- 調査項目の設定:目的達成のために必要な調査項目を設定。市場性、技術面、採算性、法的規制などの観点から洗い出します。
- データ収集・分析:実地調査、ヒアリング、公開データの活用などで必要な情報を集め、定量・定性の両面から分析します。
- 評価・採算性検討:収集データをもとに実現可能性を評価。売上予測・コスト試算・投資回収年数の計算などを行います。
- 結論のまとめ・報告書作成:最終的な実施可否を判断し、報告書にまとめて関係者に報告します。
また、主な調査項目は以下になります。
市場性(マーケット調査) | 市場規模、成長性、競合状況、消費者ニーズなど |
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技術面の実現性 | 開発可能か、導入できるか、既存技術で対応可能か |
法規制・許認可 | 必要な申請・届け出、法的制約、遵守すべき基準の有無 |
採算性・収益性 | 初期投資額、ランニングコスト、収益予測、投資回収期間 |
運営体制・組織計画 | 必要な人材・組織体制、外部パートナーの選定、業務フロー |
リスク要因と対策 | 不確定要素、リスク発生確率と影響度、リスク対策案 |
フィジビリティスタディの事例紹介

実際にフィジビリティスタディが行われる場面をいくつか具体的にご紹介します。業種や規模を問わず、さまざまなプロジェクトでこの調査手法が役立てられています。
【新規事業開発のケース】
ある製造業の企業では、既存の製品販売事業に加え、保守・メンテナンスサービスを付加した新規事業の立ち上げを計画。まずフィジビリティスタディを通じて、以下の観点で調査を行いました。
- 対象市場の規模と成長性
- 競合他社のサービス展開状況と料金体系
- 自社の技術力・人員体制で対応可能かどうか
- 導入にかかる初期投資額と運営コスト
- 採算ライン到達までの期間と投資回収の見通し
調査の結果、当初想定していた形態ではコスト負担が大きく、収益化までに5年以上を要することが判明。そこで計画を見直し、既存の販売ネットワークを活用した、簡易メンテナンスパッケージの提供に事業モデルを転換した。 初期投資を抑えながら、付加価値の高いサービス事業として実現する方向で進めることになりました。この事例では、フィジビリティスタディによる事前検証がなければ、採算が取れないモデルのまま進行し、失敗する可能性が高かったと考えられます。
【ITシステム導入のケース】
中堅企業の経理・財務部門では、老朽化した基幹システムの刷新を検討。社内から「最新のクラウド型ERPを導入すべき」との声が上がりましたが、経営陣は慎重で、フィジビリティスタディを実施することに。調査内容は以下の通りです。
- 現行システムの課題と改善要望のヒアリング
- 複数のベンダーから提案を受け、機能・コスト・導入実績を比較
- クラウド導入時のデータ移行や運用リスクの整理
- 初期導入費用、月額利用料、保守運用費の試算
- 改正電子帳簿保存法などの最新法的要件への適合状況確認
- 投資回収シミュレーション(ROI・NPV)
結果、クラウドERP導入によって業務効率化とコスト削減効果が5年で投資回収できることが明らかになり、導入を決定。導入後は決算業務の早期化や、月次レポート作成時間の大幅短縮を実現しました。
【不動産開発プロジェクトのケース】
都市部の再開発事業に取り組む不動産デベロッパーは、大型商業施設の開発計画に先立ち、フィジビリティスタディを実施しました。調査内容は以下の通りです。
- 土地取得条件、建ぺい率・容積率など法規制の確認
- 周辺エリアの人口動態・購買力・競合施設の調査
- 入居テナントの想定賃料とリーシング(入居誘致)見込み
- 開発コスト、運営維持コスト、収支シミュレーション
- 地元自治体・住民へのヒアリングと合意形成の見通し
調査結果から、周辺エリアの人口減少傾向や競合施設の空きテナント率の高さなどが判明し、期待した収益性の確保が困難と判断。さらに、地元住民との調整に長期化の懸念もあり、一旦計画を凍結。代わりに、低リスクの中型物件開発へのシフトを進めることになりました。
【海外進出計画のケース】
食品メーカーが東南アジア市場への進出を計画。現地法人の設立・工場建設・製品販売の可能性についてフィジビリティスタディを実施しました。調査項目は以下の通りです。
- 現地の消費動向、嗜好、価格帯の傾向
- 輸出入規制、現地法人設立要件、税制
- 原材料・物流コスト、販売チャネルの確保状況
- 現地スタッフの雇用状況、労務規制
- 投資回収シミュレーションと為替リスクの試算
調査の結果、東南アジアでは輸入食品の関税が高く、現地法人設立とOEM生産の方がコスト面で優位性があることが判明。さらに、段階的に進出エリアを拡大することでリスクを抑えられることから、まずは試験販売と現地代理店活用によるテストマーケティングからスタートし、現地での反響を見極めながら、法人設立のタイミングを慎重に見定める方針となりました。
フィジビリティスタディを行う際の注意点

フィジビリティスタディは、事業やプロジェクトの実行可能性を客観的かつ多面的に評価する重要な調査です。しかし、そのプロセスにはいくつかの注意点も存在します。これらを軽視すると、誤った判断材料をもとに意思決定を行ってしまい、結果として計画の失敗や大きな損失につながるリスクもあります。
データの信頼性と精度の担保 | 収集データの出典や調査手法に注意し、根拠のある情報を活用すること。 |
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バイアスの排除 | 担当者の思い込みや希望的観測による判断を避け、客観的な評価を行う。 |
スケジュール・コスト管理 | 調査期間の長期化やコスト超過を防ぐため、事前に計画と管理体制を整える。 |
ステークホルダーの合意形成 | 関係者の要望や期待を事前に整理し、納得感のある報告内容を意識する。 |
まとめ

フィジビリティスタディは、プロジェクトの成否を左右する重要な調査・検討プロセスです。客観的なデータと多角的な視点で実現可能性を確認することで、リスクの最小化と意思決定の質向上に大きく貢献します。
特に新規事業や大規模投資を検討している方は、まず簡易版のフィジビリティスタディから始めてみるのもおすすめです。計画の実行可否を判断する前に、しっかりとした調査と検証を行い、納得感ある意思決定を行いましょう。
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